[大蔵弁護士による米国ビザ情報] 米国市民権の申請
日本人でグリーンカードを申請する人は多くいますが、米国市民権を申請する人は他国民に比べ比較的に少ないといえるでしょう。その理由の一つには、日本政府は二重国籍を認めていないことがあげられます。しかしながら、様々な理由で米国市民権の申請を決意する人もいます。主な理由として、夫婦間の相続税免除、親の呼び寄せや看病、また国外への留学・就職などがあげられるでしょう。そこで、下記に米国市民権の申請について説明します。
【申請条件】 申請者は市民権申請時に18歳以上であること、さらにアメリカの永住権を維持し、所定期間アメリカに滞在していることが条件です。企業スポンサーにより永住権を取得した場合は永住権取得時から実質5年間、アメリカ市民との結婚により永住権を取得した場合は実質3年間アメリカで永住権を維持していることが条件です。申請日から5年間の内、最低半分の30ヵ月はアメリカに実際に滞在していなければなりません。結婚による永住権取得者は3年の内、最低半分の18ヵ月はアメリカに実際に滞在していなければなりません。また、申請直前の3ヵ月間は申請州に居住していることを証明しなければなりません。
【申請時期】 5年或は3年の滞在期間を満たす3ヵ月前から米国市民の申請を提出することができます。申請方法に関しては、移民局のウェブサイト https://www.uscis.gov/n-400 を参考のこと。
【自動取得】 アメリカの出生主義により、アメリカで出生した子供は自動的に米国市民権を取得します。また、18歳になる前に親が米国籍に帰化した場合、子供も一緒に米国籍を取得できるので、その場合は、子供は米国市民権の申請ではなく、市民権証書の申請を行うことができます。
【審査時間】 審査期間は申請場所によって異なりますが、2021年7月時点でおよそ6 〜 23ヵ月ほど。
【国外滞在期間】 アメリカの永住権を取得してから継続して6ヵ月以上アメリカを離れていれば、米国での継続的な居住を放棄したとみなされ、米国市民権を申請できない可能性があるので注意が必要です。
【テスト】 面接時に簡単な英語と米国史のテストがあります。英語のテストは面接時に申請者の読み書き、聞き取りと話す能力を調べられます。質問に対し英語で回答できる準備をする必要があります。米国の歴史と政治の試験に関しては、移民局のウェブサイト https://my.uscis.gov/prep/test/civics にある模擬テストを受けて試験の準備をすることができます。
【高齢者】 申請時に50歳以上で永住権取得から20年以上、もしくは55歳以上で永住権取得から15年以上アメリカに居住している場合は、英語の語学テストは免除されますが、米国史と政治の基礎知識テストは受けなければなりません。ただ、通訳を使って自国の言語で試験を受けることはできます。また、申請時に65歳以上で永住権取得から20年以上アメリカに居住している場合は、米国史と政治の基礎知識テストは簡略化されたものを受けることができ、通訳を使って自国の言語で試験を受けることができます。
【犯罪歴】 犯罪歴がある場合は、犯罪に関する裁判書類を持参しなければなりません。犯罪の中でも道徳に反する犯罪 (Crime Involving Moral Turpitude=CIMT) は米国市民権申請で問題になります。CIMTとは意図的な犯罪のことで、一般に1年以上の禁固刑がある犯罪を指します。例えば、殺人、暴力や窃盗などが含まれます。一般に罰則が禁固刑1年未満である軽罪は、申請の妨げとはなりませんが、裁判書類と全ての罰則を全うした証拠を提示する必要があります。犯罪の内容によっては軽罪が複数あれば問題視されることもあるので、注意が必要です。飲酒運転に関しては、一般に人的障害などを含まないものであれば、裁判書類と全ての罰則を全うした証拠を提示すれば申請はできます。しかし、重度な飲酒運転は問題になる可能性もあるので、地元の州法を調べる必要があります。
【徴兵登録】 18歳から25歳の間に永住権を保有している男性は、アメリカの徴兵登録をおこなわなければなりません。徴兵登録を怠った場合、その理由を示す書類の提出が必要となります。正当な理由を提示できなければ、米国市民権は認可されません。徴兵登録をしても、自動的に兵役につくわけではありません。詳しくは徴兵登録のリンク http://www.sss.gov/ を参考ください。
【宣誓式】 面接後、宣誓式への参加のアポをとります。宣誓式ではアメリカ合衆国憲法を守り、自国を守る意思があることを示し、アメリカへの忠誠の誓いを立てなければなりません。宣誓式で宣誓を終われば、帰化証明書が発行されます。
【市民権 VS 永住権】 永住権保持者は再入国許可証を申請せずに一年以上アメリカを離れると、永住権を取り消される可能性がありますが、米国市民にはそのような制限はないので、親の看病などで長期アメリカを不在にしても問題はありません。米国パスポートは国外の米国大使館で申請できます。また、米国市民には選挙権が与えられ、連邦政府機関への就職も可能となり、夫婦間の相続税免除などのメリットがあります。さらに、米国市民は親のグリーンカード申請をスポンサーすることができるので、親を呼び寄せることができます。また、子供が日本や国外での長期間留学や就職のためにアメリカを長期不在にした場合、永住権の維持が難しくなります。その場合、出発前に米国市民権を取得すれば、長期間アメリカを不在にしても、将来アメリカに戻ってくることができます。しかし、日本政府は二重国籍を認めていないため、原則としては自らの意思でアメリカの市民権を取得すると日本国籍を放棄しなければならないので、それぞれのオプションを十分に検討したほうがよいでしょう。
執筆者について
このコラムは、Taylor English Duma法律事務所の大蔵昌枝弁護士によって執筆されています。大蔵弁護士へのお問い合せは下記の情報を参照下さい。
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