[大蔵弁護士による米国ビザ情報] 二重目的ビザ
トランプ政権時に永住権申請者全員に面接が義務付けられるようになり、さらに新型コロナによるパンデミックで指紋押捺会場が一時閉鎖したために、永住権の審査待ち時間が非常に長くなってしまいました。各審査が正常に戻ってからも、過去3年間にできた長い待ち時間が元に戻るにはまだまだ時間がかかると思われます。特に永住権申請と同時に申請する就労カードや旅行許可書の審査も遅れているために、永住権申請中に就労滞在資格が失効し、就労が一旦中断するなど、新たな問題が起きています。これらの問題への対応方法は、ビザ種類によって異なってきます。
【二重目的ビザ】 H-1B や L-1 就労ビザは、二重目的 (Dual Intent) が許されるビザです。つまり、これらは永住する意思を示してもよいビザなので、永住権申請中も H-1B や L-1 就労ビザを延長することができます。ビザ面接時に永住権を申請していると表明しても、ビザの発行に影響はしません。また、永住権申請中も自由にアメリカに出入りすることができます。
【単一目的ビザ】 しかしながら、B、F-1、M、J、E、TN、O、Q ビザなどその他のビザは単一目的ビザとみなされ、二重目的が許されていません。ビザ面接時に永住する意思があることを表明すると、ビザは却下されます。また、アメリカ入国時に永住する意思があることを表明すると、入国を拒否されます。従って、単一目的ビザ保持者がアメリカ国内で永住権を申請した場合、アメリカ国内で元々の滞在資格を延長することはできなくなります。また、永住権申請中に一旦国外にでたら、単一目的ビザでは再入国できなくなります。このために、永住権申請中も就労を続け、国外から出入りできるように、永住権申請時に就労許可証と旅行許可証を一緒に申請します。ただ、これらの審査時間が現時点で10か月以上かかっているため、それまでに就労ビザ滞在資格 (I-94) が失効してしまえば、就労が一旦中断してしまいます。また、旅行許可証が届くまで長い期間国外にでられなくなります。
【90日ルール】 単一ビザ保持者は永住を目的としてアメリカに入国できないために、入国後90日以内に永住権を申請したら、入国時に入国目的を偽ったと判断され、永住権申請が却下される可能性があります。例えば、観光目的でアメリカに入国し、入国後90日以内にアメリカ市民或は永住権保持者と結婚してグリーンカードを申請した場合、もともと観光目的ではなく、結婚と永住権申請目的で入国したと判断され、永住権が却下される可能性が大きくなります。入国後90日経過後に結婚した場合は、永住権申請は問題とはなりませんが、永住権申請後に国外にでたら、再度観光ビザでは入国できなくなります。また、旅行許可証が発行される前に国外にでたら、永住権申請は却下されてしまいます。その他にも、観光目的で入国し、その後90日以内に就労ビザへの変更申請をした場合も、入国目的を偽ったと判断され、就労ビザへの変更申請が却下される危険があります。
従って、単一目的ビザ保持者は、入国後90日以内に入国目的と異なる行動をとらないように注意することが大切です。また、永住権を申請する前に、或は申請後に、二重目的が許される H-1B ビザへの変更申請が可能か検討する方法もあります。H-1B ビザは最長で6年間までの滞在が許されますが、他のビザとは異なり、H-1B が失効するまでに永住権の申請を開始し、Labor Certification を申請してから1年が過ぎれば、永住権申請中は6年目以降も H-1B 滞在資格を一年毎に延長することができます。また、雇用主スポンサー申請 (I-140) が承認されて、国別枠の待時間があるために永住権への滞在資格変更申請 (I-485) が提出できない場合は、永住権申請中は6年目以降も3年間延長することができます。ただ、アメリカの移民法は随時ルールが変わるので、必ず事前に専門家に相談して計画するように心がけた方がよいでしょう。
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このコラムは、Taylor English Duma 法律事務所の大蔵昌枝弁護士によって執筆されています。大蔵弁護士へのお問い合せは下記の情報を参照下さい。
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