[大蔵弁護士による米国ビザ情報] 新トランプ政権の移民法政策

2025年1月に発足する新トランプ政権は、徹底的な移民法取締方針を実行に移すものと思われます。まず、バイデン政権により設けられた様々な移民関連政策を撤回し、トランプ前政権時の規制強化が復活すると見込まれます。特に国境警備や不法滞在者取締の強化、DACA や TPS などの人道的プログラムの廃止、イスラム圏からの外国人の入国禁止、抽選永住権制度の廃止、公的扶助制限規定の復活、さらに、一時就労ビザ、就労許可証、亡命者などに対する規定を設けると考えられます。下記に今後の主な注目点について解説します。

【職場捜査】 アメリカに不法に滞在する外国人に対して大掛かりな大量強制送還を実行するために、移民捜査局による大規模な職場への立入捜査が予想されます。毎年百万人以上の不法外国人の退去をするために今後10​​年以上にわたり9,679億ドルの費用がかかると発表されています。このような突然の立入捜査や強制送還は家族の離別をもたらし、差別行為に発展するリスクを秘めています。DACA などの移民労働者に頼っている産業は経済的な打撃を受けることになりかねないので、労働者確保の対策を早めに検討したほうがよいでしょう。

【F-1/M-1/J-1】 現在 F、M、J などの学生・交換留学ビザで滞在しているものは、I-94 に特定の滞在期間が書かれていません。これらのビザ種類の滞在期限は Duration of Stay (D/S) と記載があり、つまり I-20 や I-2019 の有効期間まで滞在することができます。新トランプ政権は D/S の代わりに特定日を記載することにより、オーバーステイの取締を強化する可能性があります。また、STEM 学生は1年間の OPT をさらに2年間延長できますが、新トランプ政権はこれを撤回する可能性があります。さらに、“敵国” とみなされる国の出身者の学生ビザ (F-1/M-1/J-1) の発行を制限する可能性もあります。

【就労ビザ】 バイデン政権は、就労ビザの申請に関し、初回の申請が審査され承認されていれば、延長申請の審査は簡素化するように方針を打ち出しましたが、新トランプ政権は前任期同様、同じポジションの延長申請であっても初回申請時と同様に厳しく審査する方針を掲げています。トランプ前政権時には、このために同じポジションの延長申請で却下された H-1B 社員が数多く出て問題となりました。また、米国移民局が各種ビザの承認通知書を発行する前に、詐欺調査部門の審査を義務付けることも示唆されており、これにより審査時間が長引くことが予想されます。さらに、トランプ前政権時に家族の滞在資格延長申請時に指紋押捺が義務つけられましたが、バイデン政権時には指紋が免除されることが多くみられました。新トランプ政権は、指紋押捺義務を復活する方針を打ち出しており、これにより移民局の滞在資格延長や変更申請の審査時間が長引くものと思われます。

【永住権申請】 以前は雇用ベースの永住権申請者は、飲酒運転やその他の逮捕歴や違反事項がある申請者のみが面接に呼ばれていましたが、前トランプ政権時に全員の面接が義務つけられたために、永住権取得までの時間が大幅に長くなりました。バイデン政権下では面接免除が多くなりましたが、新トランプ政権は全員面接を復活させると予想されます。また、バイデン政権は永住権申請時の就労許可証の有効期限を5年に延ばし、健康診断の有効期限を無期限に変更しましたが、新トランプ政権はこれらの措置を撤回する可能性があります。さらに、低所得者がアメリカの生活保護の対象とならないように、新トランプ政権は公的扶助規則を復活させて、移民申請の基準を厳しくする可能性があります。

【米国市民権】 新トランプ政権は前任期同様に、詐欺やその他違法な手段で米国市民権を取得した者を起訴し、米国市民権を取り消す措置を復活させると予想されます。また、出生地主義による自動的な米国市民権付与を廃止し、両親のいずれかが米国市民或は米国永住権保持者であることを条件にいれる可能性があります。

【E-Verify/G-Verify】 現在では、新入社員のソーシャルセキュリティー番号を確認する E-Verify プログラムの加盟は各州によって決められていますが、新トランプ政権は E-Verify プログラム加入を義務付けるか、或は、紙面の I-9 フォームを廃止して新たに G-Verify プログラムを設け、既存の E-Verify プログラムと同様に雇用主にオンラインシステムで従業員の就労許可を確認することを義務付ける可能性があります。

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このコラムは、Taylor English Duma 法律事務所の大蔵昌枝弁護士によって執筆されています。大蔵弁護士へのお問い合せは下記の情報を参照下さい。

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