[激変し続ける米国労働市場] 9. 日系企業と米系企業の賃金格差

当社の主な事業は、人材紹介 (Placement)・人材派遣 (Staffing) であるが、近年の全米各地の給与水準に大きな差が出ているように思われる。

一般職レベルでの平均的な給与水準は中西部地域が南部地域よりも高く、カリフォルニア南部地域では低い水準である。これは、その地域の産業に起因するところが大きい。

中西部や南東部ではバイリンガル人材が欠乏しており、各企業も極端な売り手市場 (求職者優位) であることを考慮し、給与水準を高めに提示している。これに対して、カリフォルニア南部やニューヨーク地域では、反対にバイリンガル人材が豊富にいるもの (買い手市場) という意識が強いためか、賃金上昇に対しての意識が鈍感な感じを受ける。生活費ではカリフォルニアとニューヨーク地域のほうが高いはずなのにである。

時折、「日系企業給与水準調査」なるものを求める顧客企業もあるが、サンプル企業が少ないことや、今更近隣の日系企業の給与水準を知ったところで、米系企業との給与レベルの乖離がある中で、同情報がどれほど役に立つかは甚だ疑問である。

給与レベルの乖離という点では、中西部と南部で面白い比較情報がある。もともと給与水準相場が明らかに低い日系企業ではあるが、南部地域一帯の日系企業と米系企業との給与格差よりも中西部地域一帯のそれは極めて大きい。南部では入社時の一時金支払い (Sign on Bonus) で対応できることもあるが、中西部ではその程度のことでは良い人材を採用できないケースの報告をよく受ける。

一例としてインディアナ州。同州は、小さな州にも関わらず世界各国からの企業誘致を積極的に行っており、州内全域に多数の企業が存在している。飽和状態を超えた企業誘致をしてきたことで、近隣企業の賃金が著しく上昇し、なかなか良い人材が日系企業に回って来ないということもよく理解できる。この点、南部地域一帯にはまだまだ企業誘致の余地があるようだ。


執筆
インテレッセインターナショナルグループ
社長 藤原昌人
1994年1月に人材会社の駐在員としてニューヨークに赴任。1996年の帰任命令に反して独立・創業。現在、全米11拠点、そして2022年から日本法人を設立し、日米双方で人材ビジネスを展開する。30年に及ぶ人材ビジネスでの知識と経験でビジネスに有益な情報を届ける。