[大蔵弁護士による米国ビザ情報] 出生主義による米国市民権
米国の現行法では、出生主義による米国市民権付与の原則に基づき、米国で生まれた子供には自動的に米国市民権が付与されます。ただし、これは外交官と米国領土内に住む外国兵の子供には適用されません。出生主義による米国市民権付与の概念は、1844年の裁判で初めて取り上げられました。しかし、この判決は米国生まれの白人のみを対象としており、米国内で生まれたすべての人に適用されませんでした。その13年後には最高裁が奴隷とアフリカ系アメリカ人は米国市民ではないという原則を定めたことにより、アフリカ系アメリカ人には出生主義による米国市民権は与えられませんでした。その後アメリカの奴隷は南北戦争中に解放されたものの、依然として米国市民とはみなされませんでした。
南北戦争終結後、アフリカ系アメリカ人に一定の権利の保障を盛り込んだ合衆国憲法修正第14条が制定されましたが、それにもかかわらず、1882年の中国人排斥法、1924年原住民 (Native America) 市民権法など排他的な法律により一部の人種は対象外とされていました。しかし、その後の訴訟により、人種に関わらず米国領土内で生まれたすべての人に、出生地主義に基づく市民権付与が保障されました。その後は1世紀以上にわたり、米国領土で生まれた人には、両親の滞在資格に関係なく、出生時に自動的に市民権を付与されるようになりました。
しかしながら、出生主義による市民権取得に対する反対意見も多く、前トランプ政権時代にも出生主義による市民権取得制度を廃止する発言もありました。ただ、当時は詳細が欠如しており、実現には至りませんでした。2025年1月20日、トランプ大統領は就任直後に、下記2通りの親に生まれた子に対しては、出生地主義市民権を付与しない大統領令を発令しました。1) 不法滞在の母親と米国市民権や永住権をもたない父親の間に生まれた子、2) 短期訪問者である母親と米国市民権や永住権をもたない父親の間に生まれた子。
これに対し、2025年1月23日には、ワシントン州西部地区の連邦地方裁判所が、ワシントン州、アリゾナ州、イリノイ州、オレゴン州が提訴した訴訟において、大統領令の実施を差し止める暫定差し止め命令を発令しました。2月5日には、メリーランド州の連邦裁判所が、妊婦らが提訴した訴訟において仮差し止め命令を発令しました。その後、2月10日にはニューハンプシャー州の連邦裁判所も仮差し止め命令を発令し、訴訟中はトランプ政権による大統領令の実施を禁止しました。
現行法では議会に米国市民権を剥奪する権限はありません。出生地主義に基づく市民権は、外国への忠誠宣言、米国国籍の正式放棄、あるいは米国に対する反逆的、転覆行為などを通じて、個人が自発的に市民権を放棄しない限りは喪失しません。合衆国憲法修正第14条に保証されている出生主義による市民権の付与を剥奪するためには、通常は上院と下院の両方で合衆国憲法を改正するか、あるいは合衆国最高裁判所が建国以前からの長年にわたる憲法修正第14条の解釈を見直す必要があります。トランプ大統領は、大統領令の合憲性を主張していくと思われますが、今後も各州での訴訟が予想されるので、今後の裁判の動向を見守る必要があります。
【外国人登録:14歳未満の子供の登録】
なお、前号で掲載した外国人登録に関して注意事項があります。米国移民局は米国入国時に I-94 を発行された人は登録済としていますが、ビザ申請時に登録されなかった14歳未満の子供で30日以上アメリカに滞在する場合は、入国後30日以内に親が子供を登録する義務があるとしています。14歳未満の子供は通常指紋をとられないので、ビザ発行時には登録されていないことになります。したがって、I-94 が発行されていても、14歳未満の子供で30日以上アメリカに滞在する場合は、入国後30日以内に親が子供のオンラインアカウントを開き、G325R を提出して登録する義務があります。子供が14歳になった時点で再度登録し、この時点で指紋をとることになります。
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このコラムは、Taylor English Duma 法律事務所の大蔵昌枝弁護士によって執筆されています。大蔵弁護士へのお問い合せは下記の情報を参照下さい。
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