[激変し続ける米国労働市場] 12. 日米の採用スピード・プロセスの違い(その2)

日米の採用プロセスとスピードの違いについて前回は書きました。
もう少し「深堀り」してみると、これも面白い。

アメリカで事業を推進している日系企業の規模は、当然ながら日本本社の規模よりもはるかに小さい。したがって、人事部の規模も小さい。

そのようなことから、採用においても各部署との作業分担がなされているケースも多々見受けられる。

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ひとつの例として、履歴書を受け取るのは人事部門の採用担当者ではあるが、その後の採用プロセスは採用する事業部に任せ、結果としての採用の合否のみを人事部に報告する。
人事担当者は、その採用される予定の求職者のバックグラウンドチェックのみを行う。

バックグラウンドチェックではドラッグテストがあり、合法麻薬といえども州法や勤務する職場・職種によっては採用されないケースも、それなりの確率である。人事の役割として「会社を守る」という観点から、例えその候補者が素晴らしい経歴、学歴、人物であったとしても、断固として拒否をする。

次に、人事部門の採用担当者は合格した候補者に対して、詳細なベネフィット情報を提供するのみ、というスタイルの会社もある。

人事の採用担当者の役割として「会社のプロテクションの機能」を最重要視していると言える。

このように、人材採用部門と人材採用を要求する現場・事業部との間で役割分担を明確にし、しかもアメリカでは人材採用は“戦い”であり、採用プロセスのスピードを上げることは極めて重要である。

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アメリカでは、採用される人材の人種、国籍、性別、肌の色などの理由での差別は禁止されているので、様々な候補者と面談をすることになる。

最近あったケースでは、南米出身者で米国に移住し、合法的に就労できる候補者のバックグラウンドチェックに、本人が過去に名前を変更したことや米国内での転居が多かったことから、約4週間かかったことがあった(通常は約10日間)。

これは極めて稀なケースではあるが、多人種・多民族が著しく混ざり合ったアメリカにおいては、このようなこともある。

基本的に単一民族の日本の場合、日本の常識的な基準を中心とした対応では、人口減少が著しい中、今後も増え続ける外国人就労者への対応は難しくなることは明確である。アメリカ式の採用方法がすべてにおいて良いとは決して言えないが、日本においても参考にすべき点は多々あるだろう。

日本には「本音と建前」という、日本社会をうまく表現する言葉がある。アメリカでは基本的には「本音と本音がぶつかり合う社会」であり、その中で個人の権利と自由が認められた上で企業の運営がなされている。日本における社会・企業の国際化に向けて、これは重要なポイントであると思われる。


執筆
インテレッセインターナショナルグループ
社長 藤原昌人
1994年1月に人材会社の駐在員としてニューヨークに赴任。1996年の帰任命令に反して独立・創業。現在、全米11拠点、そして2022年から日本法人を設立し、日米双方で人材ビジネスを展開する。30年に及ぶ人材ビジネスでの知識と経験でビジネスに有益な情報を届ける。