[大蔵弁護士による米国ビザ情報] 一時的保護資格 (TPS)
一時的保護資格 (TPS) とは、戦争や災害など特別な事情により安全に帰国ができない状況にある外国人に与えられる短期的滞在資格のことです。TPS 保持者は母国が安定するまでの間、強制退去処分の対象とはなりません。その間、米国に滞在し就労することができます。現時点でおよそ16カ国が対象となっており、昨年時点でおよそ110万人もの TPS 資格保持者が存在していました。バイデン元大統領は政権終了直前に、TPS 資格を18カ月間延長する措置をとりました。しかし、トランプ政権発足直後にこれらの延長措置は却下されると発表されました。これを受け、政府に対して訴訟が起こされています。下記に最近の動向を説明します。
ハイチは2021年8月に TPS の対象に指定されましたが、バイデン前政権はハイチ TPS の滞在期間を2024年8月3日から2026年2月3日まで18カ月間延長しました。しかしながら、トランプ政権発足後、この延長期間が18カ月から12カ月に短縮され、2025年8月3日に期限切れになると発表されました。滞在期間失効後は2025年9月2日まで移行期間が与えられました。ところが、国土安全保障省が連邦最高裁判所で類似案件で8対1の勝訴判決を得ているにもかかわらず、7月15日にはニューヨーク東部地区連邦地方裁判所の単独判事が、ハイチの TPS 資格は2026年2月3日より前には失効しないという最終判決を下しました。したがって、現時点においては TPS 枠 (A12 あるいは C19) で申請した就労カード (EAD) の失効日が9/5/2025、8/3/2025、8/3/2024、6/30/2024、2/3/2023、12/31/2022、10/4/2121、1/4/2021、1/2/2020、7/22/2019、1/22/2018、7/22/2017のいずれかであれば、EAD は2026年2月3日まで自動的に延長されます。雇用主は、労働許可の証明として EAD を提示した社員の就労資格を再確認し、I-9 の就労期限を更新しなければなりません。しかしながら、国土安全保障省はこの判決に強く反対しており、今後この判決がまた覆される可能性もあるので、今後の裁判状況を見守る必要があります。
ホンジュラス (ホ) とニカラグア (ニ) は1999年に TPS の対象国に指定されました。前トランプ政権下で両国の TPS を解除する動きがありましたが、解除には至りませんでした。2023年6月にバイデン前政権は両国の TPS 期限を2025年7月5日まで延長しました。現トランプ政権発足後は、両国の TPS はこれ以上延長しないと発表され、両国の TPS 保持者には60日間の移行期間が設けられました。TPS 枠 (A12 あるいは C19) で申請した EAD の失効日が1/5/2018、1/5/2019 (ニ) 、7/5/2018 (ホ) 、4/2/2019 (ニ) 、1/2/2020 (ニ) 、1/5/2020 (ホ) 、1/4/2021、10/4/2021、12/31/2022、6/30/2024、7/5/2025のいずれかであれば、EAD は2025年9月8日まで自動的に延長されます。雇用主は、労働許可の証明として EAD を提示した社員の就労資格を再確認し、I-9 の就労期限を更新しなければなりません。
ベネズエラの TPS には2021年指定のものと2023年指定のものがあります。2023年指定の TPS は、今年の1月にバイデン前政権により TPS 期限が2025年4月3日から2026年10月2日まで18カ月間延長されました。これにより、2025年1月17日から9月10日までの間に TPS の再登録を行うことにより、EAD が2026年4月2日まで自動延長されました。ところが、トランプ新政権はベネズエラの TPS 資格の延長措置を取り消し、2003年指定の TPS の有効期限を従来の2025年4月2日に戻しました。TPS 給付期限は2025年4月7日までとし、TPS の再登録審査も停止されると発表されました。
しかしながら、その後の裁判命令により、TPS 保護取消が発表された2025年2月5日以前に TPS に基づいた2026年10月2日まで有効な EAD、承認通知書 (I-797)、I-94 を受け取った人は、訴訟中は TPS 滞在資格を維持することができるようになりました。新しい EAD がまだ承認されていない場合は、2025年4月2日に失効する EAD と2025年2月5日以前に就労許可延長申請が受領されたことを示す受領通知書 (I-797) があれば、EAD は最長で540日間自動的に延長されます。有効期限が 2026年10月2日までの TPS 関連通知やカードを2025年2月5日以降に受領した場合はすべての書類は無効となります。
一方、2021年指定のベネズエラの TPS 認定者は今回の延長取消の対象ではないので、2025年9月10日まで滞在が許可されている人はその日まで滞在し、就労を続けることができます。また、TPS 失効前60日前までに政府が延長取消の意向を発表しなかったため、2021年指定のベネズエラの TPS 認定者はさらに延長できる可能性があるので、今後の裁判命令を見守る必要があります。就労許可期間が延長された場合、雇用主は、該当社員が提示する就労資格書類を再確認し、I-9 情報を更新する必要があります。
TPS 期限が失効したら、TPS 保持者は TPS 取得以前の滞在資格に戻ります。TPS 取得以前に米国で合法的な滞在資格を保っていなかった人は不法滞在扱いとなり、強制退去の対象となる可能性があるので注意が必要です。したがって、TPS 社員がいる場合、他のビザへの変更申請が可能か、アメリカ国内での変更申請は可能か、国外から申請して再入国できるか、入国拒否となる事由がないかなど、TPS 資格が失効する前にあらゆるオプションを検討したほうがよいでしょう。なお、TPS の裁判状況により社員のオプションが変わってくるので、必ず最新の裁判情報を入手するように心がけたほうがよいでしょう。
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このコラムは、Taylor Duma 法律事務所の大蔵昌枝弁護士によって執筆されています。大蔵弁護士へのお問い合せは下記の情報を参照下さい。
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