🇺🇸 アメリカの日系企業が直面する採用の転換点(前編)

― 減少する在米日本人と“絶滅危惧種”バイリンガル人材 ―
2025年7月、ニューヨークで開催されたジェトロ講演会で、弊社インテレッセ・インターナショナル代表の藤原昌人が「今後の人材採用」をテーマに登壇しました。
9.11テロ、リーマンショック、コロナ禍、そしてビザ政策の変化を経て、アメリカにおける日系企業の採用環境は大きく変わっています。本記事では、その講演内容をもとに、アメリカ市場で進行している“人材構造の変化”を整理します。
🗽 9.11同時多発テロがもたらした転換点
2001年に発生したアメリカ同時多発テロは、アメリカ社会に深い衝撃を与えただけでなく、世界のビジネス構造を根底から変えました。
それまでニューヨークには世界中から人材が集まり、メリルリンチ、JPモルガン、ゴールドマン・サックス、ドイチェバンクなど、外資系金融機関で多くの日本人プロフェッショナルが活躍していました。しかしテロ以降、ニューヨークに集中していた企業や人材は、リスク分散のためにロンドンや香港、東京などへと拠点を分散。結果的に、アメリカで働く日本人金融人材の数は減少に転じました。
一方で、当時の留学人気は依然として高く、2000年代前半までは若年層の留学・駐在が増加していた時期でもあります。「まだアメリカに希望を感じていた最後の時期」でした。
🧭 リーマンショックがもたらした採用構造の変化
2008年、リーマンショックが発生。世界的な金融危機を受け、アメリカの雇用は一気に冷え込みました。
オバマ政権は “アメリカ人の雇用保護” を最優先に掲げ、H1-Bビザの審査厳格化・費用増額・抜き打ち検査を実施。
その結果、
- H1-B枠はインド系・中国系エンジニアに大きくシフト
- 日本人の専門職採用は急激に縮小
- 留学生もビザ取得が難しく、卒業後に帰国せざるを得ないケースが増加
ここからアメリカで働く日本人の“母数そのもの”が減り始めました。
📉 減り続ける若年層と進む高齢化
1990年代以降、アメリカでは物価と賃金が約2.5倍に上昇した一方、日本の平均所得はほとんど変わりませんでした。
その結果、経済的理由で留学を断念する家庭が増え、「アメリカで学び、働く日本人若者」が目に見えて減少しています。

2020年の米国国勢調査によると、アメリカ在住の日本人のうち49.1%が60歳以上という結果が出ています。つまり、働ける年齢層の日本人は全体の半分以下。

藤原は講演でこの状況を、印象的なたとえで語りました。
「池に釣り糸を垂れても、魚はいない。」
それは単なる人口統計の話ではなく、在米日本人の若年層人材が構造的に減っているという現実を表しています。
🌪️ コロナ禍でさらに進んだ「人材消失」
リーマンショックから回復の兆しが見え始めた矢先、
2020年の新型コロナウイルスが再び雇用市場を直撃。
- 観光・航空・ウェディング産業が壊滅的打撃
- 全米失業率が数週間で 14% 超へ
- 就労ビザ保持者は失業保険の対象外
そのため、多くの在米日本人が帰国を余儀なくされました。
これにより、アメリカの日本人労働力はさらに大きく縮小。
パンデミックは、日系企業に「人材をどう確保し、どう守るか」を根本から問い直すきっかけとなりました。
🧩 バイリンガル人材は“絶滅危惧種”に
こうした歴史的な流れを踏まえ、藤原は講演で次のように警鐘を鳴らしました。
「アメリカでの日英バイリンガル採用は、将来的にヨーロッパ並みに難しくなる。」
もはや時代は、
“日本語が話せる人を探す時代” ではなく
“限られた人材をどう育て、最大化するかの時代”
へと完全に移行しています。
🕊️ 現場からの声を届ける ― 駐日アメリカ大使、そして大統領への陳情
― 駐日アメリカ大使・大統領への陳情 ―
こうした危機感から、弊社代表・藤原昌人は
2018年と2024年の2度にわたり、駐日アメリカ大使・アメリカ大統領へ陳情 を行いました。
目的はただ一つ。
アメリカで働く日本人・バイリンガル人材の現実を政策レベルに届けること。
- ビザ制度
- 人材交流
- 教育支援
- 若年層支援
これらを現実的に改善し、再び「アメリカを目指す若い世代」を育てるための第一歩です。
「企業が声をあげなければ、現場の課題は制度に届かない。」
そうした信念から生まれた取り組みでもあります。
✳️ 次回予告:「後編」では“どう変えるか”を
後編では、藤原が講演で語った
- 現地基準で採用を進める企業の特徴
- 今後の日系企業が取るべき具体的アクション
- “採用できる企業”は何が違うのか
をまとめます。
バイリンガル人材が減少し続ける時代に、日系企業はどう変わるべきか?
次回、実践編として詳しくお伝えします。
執筆:iiicareer 編集部
参考:ジェトロNY講演会「今後の人材採用」(2025年7月、弊社代表・藤原昌人 講演)


