[大蔵弁護士による米国ビザ情報] H-1Bビザ「10万ドル追加料金」をめぐる政策転換と司法判断の推移

2025年9月、トランプ政権はH-1B制度の乱用防止、米国人労働者の保護、そして外国人労働者の受け入れによる賃金抑制の回避を目的として、H-1Bビザ申請に10万ドルの追加料金を課す新制度を発表しました。これは従来の申請手数料とは別に雇用主が負担するもので、米国外から新規にH-1Bを申請し、領事館でビザ発給を受けるケースが対象とされました。一方、既存H-1B保持者の延長申請や、米国内での在留資格の延長や変更は対象外とされました。

これは、H‑1Bの申請者のうち約75%以上を占めるインド系IT技術者が、長年にわたり海外から大量に採用されてきた結果、米国人労働者の雇用機会を圧迫しているとの指摘が続いてきたことを背景にした政策判断であると考えられますが、この異例の高額追加料金は、米国内の企業、大学、研究機関、医療機関などから強い反発を招きました。高度人材に依存する産業界は、10万ドルという負担が優秀な海外人材の採用を著しく阻害し、米国の国際競争力を低下させると主張しました。複数の州政府や業界団体は連邦政府を提訴し、大統領には議会の承認なく新税を創設する権限はないとして制度の無効を求めました。

【地裁判決:追加料金は「税」に該当し無効】
2026年6月8日、マサチューセッツ州連邦地方裁判所は、10万ドル追加料金制度を無効と判断しました。判決では、この支払いは行政サービスの実費回収を目的とする通常の手数料とは異なり、実質的に「税金」に該当すると指摘し、米国憲法上、課税権は連邦議会に属しているため、大統領が単独で新税を創設することは許されないと結論づけました。この判断により、追加料金の徴収は一時的に差し止められました。

【政府の対応:控訴と緊急執行停止の申立て】
これに対し政府は上訴し、10万ドルは税ではなく、移民制度の適正運用のための規制手数料であり、米国の雇用市場や国家安全保障を守るために必要な措置だと主張すると同時に、判決の効力を止めるため緊急執行停止を申請しました。裁判所はこれを認め、上訴審の審理中は追加料金の徴収が再開されることとなりました。

【今後の見通し:上訴、最高裁審議】
その後、上訴裁での本格審理が行われるまでの間、地裁判決の効力は一時的に停止されています。したがって、追加料金の支払義務は今後の司法判断に左右される不安定な状況にあります。

上訴審で政府が敗訴した場合、争点は連邦最高裁に持ち込まれる見込みです。制度の存廃は、今後の判決と政治的動向に大きく依存することになります。

【実務上の留意点】
H-1Bの10万ドル追加料金は、現時点では徴収が再開されていますが、最終的な法的結論は確定していません。そのため、企業・申請者は以下の点に留意する必要があります。まず、H-1B申請前に最新の政府発表・裁判状況を確認すること;米国外の領事申請か、米国内移民局への滞在資格の延長・変更申請であるかを正確に区別し10万ドル追加料金の対象になるか否かを判断すること;さらに訴訟の進展に応じて予算計画・採用計画を柔軟に調整することです。

H-1B制度をめぐる政策は今後も大きく変動する可能性があり、最新情報の継続的なモニタリングが不可欠であると思われます。

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