[大蔵弁護士による米国ビザ情報] 2021年度移民法の動向

2021年1月20日にバイデン新大統領の就任式が行われますが、新型コロナウイルス蔓延の中、過去4年間にトランプ政権により施行された法律の見直しなど、新政権は発足早々膨大な課題の対応に追われると思われます。移民法だけでもトランプ政権による400以上もの法律や方針が施行されており、これら全部に対応するのに数年かかると見込まれ、中には撤回できないものもあると思われます。移民法に関して、今後動向を見守る必要のある課題が数々ありますが、日本人社会に影響の多いと思われる主なトピックを挙げてみます。

【平均賃金の引上げ】 2020年10月8日、トランプ政権は労働省により設定されている平均賃金のレベルを引上げる旨を発表しました。平均賃金規定はH1Bビザと永住権申請時に適用されるものですが、新規定により就労場所やポジションによっては20%から100%以上引き上げになりました。しかしながら、裁判判決により、この法律は12月早々には取り下げられ、現在は元の平均賃金レベルに戻っています。ただ、バイデン政権発足までに現政権が上訴する可能性もあるので、今後の動向を見守る必要があります。

H1B抽選―高給所得者優先】 H1Bは毎年大卒レベル者に対し6万5千枠の申請枠が設けられており、アメリカで取得した修士号レベル以上の学位取得者に対しさらに2万枠を設けています。しかしながら、申請者数は年間枠を大幅に上回っているために、毎年申請者は無作為の抽選により選ばれていました。これに対し、トランプ政権は高給所得者を優先的に選ぶように提案しています。平均賃金には4レベルの設定がありますが、この法律が施行されれば上限のレベル4や3以上の高級所得者が優先的に選ばれ、下限のレベル1や2レベルの給与所得者はH1Bを申請することが難しくなると思われます。特に職務経験のない新卒者の採用が難しくなるのではないかと見込まれます。この法律も今後法廷で撤廃されるか、バイデン政権が取り下げるか、今後の動向を見守る必要があります。

【永住権の国別枠撤廃】 2020年12月2日にFairness for High Skilled Immigrants Actが上院議員で可決されました。これは下院議員の法案の訂正版で、大統領が最終的に認可する前に、上院と下院議員が再度合意に至る必要があります。この法律が施行されれば、現在永住権申請の待ち時間が非常に長いインドや中国国籍者の待ち時間が大幅に短縮される一方、現在待ち時間のない日本を含めた多くの国の申請者に対し、数年の待ち時間が生じる可能性がでてきます。この法案はH1BやOPTを使って地元アメリカ人の職を奪っていると訴えられているインド系のIT技術者にとっては救済措置となりますが、トランプ大統領が最終的に認可するかは不明です。

【公的扶助ルール】 2020年2月24日より、亡命者・難民・家庭内暴力や人身販売の被害者等一部の例外を除き、一般に外国人の入国や永住権申請時に、将来アメリカ政府の公的扶助対象になる可能性があるかを調べる法律が施行されました。新規定では、申請者が将来のいかなる時点においても36ヵ月間に合計で12ヵ月以上特定の公的扶助を受ける可能性があるかを審査されます。公的扶助に関する一連の質問は就労ビザ、家族の滞在資格延長申請、永住権申請などに盛り込まれています。この法律は7月末より一時的に差止めされていましたが、10月上旬から適用が再開されました。今後もこの法律に対する上訴状況など、見守る必要があります。

【DACA申請再開】 2020年12月4日には連邦地方裁判所の判決で、2017年度からトランプ政権によりブロックされていたDACAプログラムが再開しました。DACAとはDeferred Action for Childhood Arrivals の略称で、2012年6月にオバマ政権により設定されたプログラムで、アメリカに不法滞在している若者が一定条件を満たせば就労許可証を申請できるよう暫定救済措置のことです。この判決のよりDACAの資格を満たす若者は延長申請のみならず、新規の申請もできるようになりました。従って、日系企業はDACAによる就労カードで就労している若者を引き続き雇用することができるようになります。

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