[大蔵弁護士による米国ビザ情報] 平均賃金大幅引き上げ

2020年10月8日、トランプ政権は、労働省が発行している平均賃金の計算方法を変更する旨を発表しました。これはコロナによる失業率の悪化やトランプ大統領のBuy American Hire American大統領令などに基づき、アメリカ人の就職確保を目的としており、平均賃金を上げることにより雇用主の外国人労働力採用の意欲を減退する意図を含んでいます。この方針により、H1Bの新規採用、H1B保持者の滞在資格延長、さらにH1B保持者の雇用主変更申請が非常に厳しくなることが見込まれます。

平均賃金順守はH1Bと雇用主スポンサーによる永住権申請に義務づけられています。H1B雇用主は就労地域における特定ポジションの平均賃金、或は同等社員に支払っている給料のいずれかの高い額を支払う義務があります。雇用主スポンサーによる永住権申請の場合は第2枠、第3枠による申請に適用され (国益枠は例外)、雇用主は本人が永住権を取得した時点で、最低でも労働局が判断した平均賃金額を支払わなければなりません。

この平均賃金は就労地域や職業毎に学歴や経験条件に応じて設定されますが、各ポジションに対しエントリーレベルからプロフェッショナルなレベルまで4レベルあります。通常、エントリーレベルのポジションには一番低いレベル1の平均賃金が適用され、かなりの経験が必要とされるようなポジションは一番高いレベル4の平均賃金が適用されます。今回の変更により、平均賃金レベル1の設定値は今までの下から17%から45%に変更となり、レベル2は34%から62%、レベル3は50%から78%、レベル4は67%から95%に変更になりました。具体例として、下記にジョージア州のフルトン・カウンティーにおける主なポジションの平均賃金の変更例を挙げています。

Transportation, Storage,
and Distribution Managers
旧法新法
レベル1$68,640
(時給 $33.00)
$93,600 
(時給 $45.00)
レベル2$93,725
(時給 $45.06)
$154,856
(時給 $74.45)
レベル3$118,810
(時給 $57.12)
$216,133
(時給 $103.91)
レベル4$143,894
(時給 $69.18)
$277,389
(時給$133.36)
Industrial Engineers 旧法新法
レベル1$59,550
(時給 $28.63)
$72,987
(時給 $35.09)
レベル2$73,674 
(時給 $35.42)
$101,525
(時給 $48.81)
レベル3$87,776
(時給 $42.20)
$130,083 
(時給 $62.54)
レベル4$101,899 
(時給 $48.99)
$158,621
(時給 $72.26)
Computer Systems Analysts旧法新法
レベル1$63,773
(時給 $30.66)
$91,187
(時給 $43.84)
レベル2$77,730
(時給 $37.37)
$111,779 
(時給 $53.74)
レベル3$91,686
(時給 $44.08)
$132,371
(時給 $63.64)
レベル4$105,643
(時給 $50.79)
$152,963
(時給 $73.54)
Market Research Analysts 旧法新法
レベル1$42,328 
(時給 $20.35)
$59,446
(時給 $43.84)
レベル2$56,909
(時給 $27.36)
$86,632 
(時給 $53.74)
レベル3$71,510
(時給 $34.38)
$113,797
(時給 $63.64)
レベル4$86,091
(時給 $41.36)
$140,982
(時給 $73.54)

この法律の撤廃を求め、既に政府に対する訴訟が起こされています。もし勝訴した場合、或は裁判結果が出るまでの間に短期的差止命令が出されれば、元の平均賃金に戻る可能性があるので、その間に古い平均賃金レベルに基づく申請をすることができる可能性があります。

政府はさらに来年度のH1Bの無作為の抽選に代わり、平均賃金のレベルの高い順に当選者を選択する方法を提案してます。H1Bは毎年大卒レベル者に対し6万5千枠の申請枠が設けられており、アメリカで取得した修士号レベル以上の学位取得者に対しさらに2万枠を設けています。ただ、毎年申請者が年間枠を大幅に超えているために、無作為の抽選により申請者が選ばれていました。もし新方針が施行されれば、新卒者などを平均賃金レベル1や2で申請することが非常に難しくなることが予想されます。これ関しても、今後の訴訟でこの法律が撤回されるか、或は3月のH1B登録期間までに新政権がこの法律を取り下げるか、雇用主は今後の成り行きにより臨機応変に採用方針を見直す準備をしたほうがよいでしょう。

執筆者について

このコラムは、Taylor English Duma法律事務所の大蔵昌枝弁護士によって執筆されています。大蔵弁護士へのお問い合せは下記の情報を参照下さい。

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