[大蔵弁護士による米国ビザ情報] 人材不足とビザオプション
新型コロナ中に自宅勤務体系が増えたことから、コロナ後も社員の勤務体系を見直す企業が多くみられます。また、採用面では候補者は100%自宅勤務、或はハイブリット自宅勤務オプションがある雇用主を選ぶ傾向もみられます。特に製造業では、職種によっては現場の機械操作が必要なため、自宅勤務オプションがない場合が多く、社員が急に退職すると生産計画に多大な支障がきたされることがあります。現地で後任の社員が採用できるまで、駐在員が退職者の穴埋めをしたり、また、日本からの応援者を派遣したりすることがよくあります。しかしながら、ビザ保持者が他の職務に就くにはリスクがあります。下記に注意事項について説明します。
駐在員の多くは関連企業間転勤の L ビザ或は E 条約ビザでアメリカに滞在していますが、申請者は役員職、管理職、専門職のいずれかのカテゴリーでビザを申請しているため、アメリカでは申請したカテゴリーの職種に従事しなければなりません。専門職から部下付きの管理職に変わる場合、或は管理職から専門職に変わる場合など、申請した職種カテゴリーと職務内容が大幅に変更する場合は事前に訂正申請が必要となります。訂正申請をしないで他の職種に就いた場合は、滞在資格の違反となります。
例えば、地元の社員が突然退職したために生産作業がストップした場合、管理職で E や L ビザを申請した駐在員が、欠員の補充として機械のオペレーションや溶接など管理業務ではない職務に就くことはできません。専門職社員も同様で、高度な専門知識を必要とする技術ポジションで申請した駐在員が、専門知識や技術を必要としない単純労働に携わることはできません。もし移民局からの監査が入り、ビザ申請時に表明した職務内容を異なる職務に携わっていたことが判明すれば、申請内容を偽ったと判断され、滞在資格を取り消される可能性もあります。最近の違反例では、カナダやメキシコ人の大卒者向けの TN ビザプログラムを利用して大量に採用されたメキシコ人技術者が、申請内容とは裏腹に生産現場の単純労働に従事させられているという内容で韓国系自動車メーカーを相手に集団訴訟を起こしています。
欠員補充が必要な職種が既存の駐在員の職務内容と異なったり、また人手が足りない場合、日本から応援者を派遣する場合もよくみられます。しかしながら、ビザ免除プログラム (ESTA) や B1 短期商用ビザで入国した場合、アメリカで仕事をしたり、賃金を得たりすることはできません。この場合、アメリカでの活動内容は会議参加、契約交渉、現場視察などに限られます。日本からアメリカに機械を販売し、契約書に修理技術者を派遣することが明記されていれば、機械の設置や修理のために一時的に渡米することはできますが、いずれの場合もアメリカ国内で賃金をもらうことはできません。
ESTA や B1 で入国を試みて、入国時に就労目的を疑われると、第2次審査室に連れて行かれます。入国官によっては、アメリカの訪問先に電話をかけて旅行者の入国目的を確認することもあり、本人の陳述とアメリカ訪問先担当者の回答内容に相違があったり、また本人の回答が矛盾していたりした場合などは、入国を拒否されることがあります。アメリカへの入国を拒否されたら将来 ESTA の申請はできなくなりますが、L や E ビザなど他のビザを申請して再入国することはできます。しかし、入国時に虚偽の陳述をしたと判断されると、将来入国禁止という判断を下されることもあります。この場合、将来のビザ申請時には毎回入国拒否理由の免除請願も一緒に提出する必要がでてきます。免除審査に毎回およそ2~3か月ほどかかります。
従って、アメリカの欠員補充目的の渡米は就労とみなされるので、例え滞在期間が一週間以内であっても、日本からの応援者は就労ビザを取得してから入国したほうがよいでしょう。E ビザも L ビザもアメリカに常駐する必要はありません。特に L ビザには Intermittent L というカテゴリーがあり、日本やアメリカ、或は多国間の職務を兼任することができます。応援内容が専門技術や特殊な知識を必要とするものではないものの、生産や工程立上げなどの短期プロジェクトや現地労働者の指導のために熟練労働者の派遣が一時的に必要であれば、立上要員用の2年間の短期 E ビザ (E TDY) を申請することもできます。
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このコラムは、Taylor English Duma 法律事務所の大蔵昌枝弁護士によって執筆されています。大蔵弁護士へのお問い合せは下記の情報を参照下さい。
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