[大蔵弁護士による米国ビザ情報] H-1B 近代化規定
2024年12月18日に H-1B ビザ近代化規定が発表されましたが、2025年1月17日から施行される予定です。新大統領就任直前に今までのバイデン政権の政策を法文化することにより、新政権による取消を難しくし、移民コミュニティーの便宜をなるべく長く確保することを意図しているものと思われます。
【H-1B の定義】 H-1B ビザは一般に大卒を必要とする専門職を対象としていますが、今回の改訂では「大卒」の定義に変更が加えられており、「通常」学士号を必要とする職業は、「常に」学士号を必要とするという意味ではないことを明確にしています。また、雇用主が複数分野の学位を受入れる場合でも、各受入分野が H-1B の職務に直接関連していれば、その職位は専門職として認められる可能性があるとしています。さらに、 “直接関連” とは必要な学位と H-1B 職務との間に「論理的な関連性」があることを意味すると明確にしています。
【事業主社員】 H-1B 社員が Controlling Interest を有する場合でも、H-1B 社員が職務の大部分の時間を専門職業務に費やしていれば、H-1B を申請できると改正法により明確にされています。ただし、この場合、初回申請と最初の延長申請の承認期間は、3年間ではなく、18カ月に制限されます。
【年間枠免除団体】 H-1B には6万5千の年間枠があり、米国の修士号以上の学位取得者には追加で2万枠もうけられています。毎年3倍以上もの請願があるために、毎年3月に無作為の抽選を行い、当選した者のみ H-1B が申請できるようになっています。ただし、特定の企業や団体は年間枠の対象とはなりません。今回の改正法により、政府や非営利の研究施設、高等教育機関と関連のある非営利団体などの年間枠免除団体は、研究や教育が主な活動でなくても、研究や教育が活動の一部である限り、年間枠免除の対象になるとしています。
【第3企業派遣】H-1B 社員が派遣元の社員として第3企業にサービスを提供するのではなく、第3企業の社員として派遣される場合、その職務が H-1B 専門職に該当するためには、派遣先企業の職務条件が H-1B の専門職として認められる必要がある、と改正法に明記されました。
【雇用の正当性】 改正規定により、雇用が存在する証明として、現行の雇用主と従業員の関係を示す書類に替わり、正真正銘のジョブオファーが存在する証拠書類の提出が条件として法文化されました。さらに、H-1B 職務の詳細日程の提示条件は削除され、H-1B 全期間にわたる日々の業務内容を説明する必要はないと法文化されました。その他にも、H-1B 雇用主は米国に合法的に存在すること、さらに米国で訴訟手続きに応じる必要があるという要件も追加されました。
【Cap-Gap Extension】 F-1 学生が OPT 期限失効前に H-1B を申請した場合、仮に OPT が H-1B の開始日以前に失効しても、OPT 期間を H-1B が始まる10月1日まで延長することができます。これを Cap-Gap Extension といいます。しかしながら、審査が長引いたために10月1日までに H-1B が承認されない場合は、現法では10月1日から H-1B が承認されるまでの期間中就労が中断してしまう問題が発生していました。このような問題を解消するために、今回の改正法では Cap-Gap Extension の期限をさらに6カ月間延長 (4月1日まで) し、H-1B 承認までに雇用期間が中断しないように取り計らっています。
【重複審査の排除】前トランプ政権下では、延長申請でも初回申請と同様に厳しく審査する方針に変えられたために、追加証拠の要請 (RFE) や却下率が激増しましたが、バイデン政権は、申請内容や申請資格に重大な変化があった場合、前回の申請内容に重大な誤りがあった場合、また、申請に大変不利な新情報が生じた場合を除き、最初の短期就労ビザの非移民請願 (I-129) が移民局に承認されていれば、雇用主と職務内容に変更がなければ、延長時は前回の審査結果を受け入れるべきであるという方針を打ち出しました。今回の改訂規定のよりこの内容が法文化されます。今回の改正法は、これは延長申請のみならず、すべての就労ビザ審査 (I-129) に対して適用されるとしています。
【職場訪問調査】 雇用主は初回申請時に H-1B の申請費用ともに$500の詐欺防止費用を支払います。移民局はこの費用を使って雇用主に違反行為がないか調査することができます。今回の改正法により移民局の職場訪問調査プログラムが法文化されました。雇用主が職場訪問調査に協力しない場合は、請願が却下、または取消される可能性があります。移民局は H-1B 社員の現在の勤務地、過去の勤務地、第3社勤務地、勤務予定地など H-1B 雇用に関わる全ての場所を訪問する権限があることを法文化しています。
新政権発足後、これらの措置を撤回しようとアクションをとることが予想されるので、雇用主は常に最新の情報を確認するように心がけた方がよいでしょう。
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このコラムは、Taylor English Duma 法律事務所の大蔵昌枝弁護士によって執筆されています。大蔵弁護士へのお問い合せは下記の情報を参照下さい。
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